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東京高等裁判所 昭和58年(ネ)2286号 判決 1984年11月29日

控訴人(附帯被控訴人)

株式会社丸藤商事

右代表者

遠藤専一郎

右訴訟代理人

石川隆

被控訴人(附帯控訴人)(選定当事者)

海老原栄一

(右の選定者は別紙選定者目録一記載のとおり。)

被控訴人(附帯控訴人)(選定当事者)

永田正夫

(右の選定者は別紙選定者目録二記載のとおり。)

右両名訴訟代理人

永瀬精一

永瀬彩子

主文

一  控訴人(附帯被控訴人)の本件控訴を棄却する。

二  被控訴人(附帯控訴人)らの附帯控訴に基づき、原判決を次のとおり変更する。

1  控訴人(附帯被控訴人)は、被控訴人(附帯控訴人)らに対し、別紙選定者目録一及び二記載の選定者全員に対する分として、金二五七万五二八〇円及び内金二一四万九〇三〇円に対する昭和五三年七月二六日以降、内金四二万六二五〇円に対する昭和五四年六月二六日以降、各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  控訴人(附帯被控訴人)は、被控訴人(附帯控訴人)らに対し、前記選定者全員に対する分として、昭和五四年七月以降毎月二五日限り金四万五八〇〇円を支払え。

3  被控訴人(附帯控訴人)らのその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用は、第一、二審を通じて三分し、その一を控訴人(附帯被控訴人)の負担とし、その余を被控訴人(附帯控訴人)らの負担とする。

四  この判決は、被控訴人(附帯控訴人)ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  控訴人(附帯被控訴人、以下単に「控訴人」という。)

1  (本件控訴について)

(一) 原判決中控訴人勝訴部分を除きこれを取り消す。

(二) 被控訴人(附帯控訴人、以下単に「被控訴人」という。)らの請求を棄却する。

(三) 訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

2  (附帯控訴について)

被控訴人らの附帯控訴をいずれも棄却する。

二  被控訴人ら

1  (本件控訴について)

本件控訴を棄却する。

2  (附帯控訴について)

(一) 原判決中被控訴人ら敗訴の部分を取り消す。

(二)(1)

(主位的請求)

控訴人は、被控訴人らに対し、別紙選定者目録一及び二記載の選定者全員に対する分として、金二五七万五二八〇円及び内金二一四万九〇三〇円に対する昭和五三年七月二六日以降、内金四二万六二五〇円に対する昭和五四年六月二六日以降、各支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

控訴人は、被控訴人らに対し、前記選定者全員に対する分として、昭和五四年七月以降毎月二五日限り金四万五八〇〇円を支払え。

(予備的請求)

控訴人は、被控訴人海老原栄一に対し、金一三三万二七三六円、被控訴人永田正夫に対し、金五八万二一七四円及び右各金員に対する昭和五六年四月一日以降支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

(2) 控訴人は、被控訴人らに対し、原判決添付別紙図面(一)に図示された、原判決添付別紙物件目録(一)記載の建物の搭屋の東、西、南、北に面した外壁に各一枚ずつ設置した縦二・五メートル、横五・五メートルの各「サウナ」とネオンで表示する看板四枚をいずれも撤去せよ。

(3) 控訴人は、被控訴人らに対し、原判決添付別紙図面(二)に図示された、原判決添付別紙物件目録(一)記載の建物の北東角に存する非常階段の二、三、四階の各おどり場東側に支柱を設置した縦八メートル、横〇・八メートル、厚さ〇・三メートルの両面(南面・北面)に、それぞれ、「サウナ・西台」、「コインランドリー・ウエスト」、「理容・ハイツ」と表示する看板を撤去せよ。

(4) 控訴人は、被控訴人らに対し、原判決添付別紙物件目録(一)記載の建物の外壁、屋上、搭屋外壁及び原判決添付別紙物件目録(四)記載の土地を専用使用してはならない。

(三) 訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。

(四) 仮執行宣言

第二  当事者の主張<省略>

第三  証拠<省略>

理由

一(当事者)

請求原因第一の各事実は、当事者間に争いがない。

二(管理費用支払請求について)

1  本件マンションの屋上、外壁、塔屋が、性質、構造上の全体共用部分であり、被控訴人両名及びその選定当事者(以下あわせて「被控訴人ら」という。)と控訴人とが、これら及び原判決添付別紙物件目録(四)記載の土地を含む同別紙物件目録(三)記載の土地(以下「本件敷地」という。)を共有していること、本件マンション各階用の火災報知器、テレビアンテナが全部一体のものとして附設されていること、控訴人の専有部分である一階店舗部分専用のクーリングタワー用の冷却水が被控訴人らの飲料水が溜められている高架水槽から給水され、右高架水槽に揚水ポンプで揚水されていることは、当事者間に争いがない。

2  <証拠>を総合すると、本件マンションは、控訴人によつて建築されたものであり、控訴人は、一階専有部分を店舗として自ら使用し、二階以上専有部分を居住用区分建物とし、その二区画を除き敷地の持分権付で一般に分譲したこと、控訴人と区分建物の買主との売買契約によると、本件マンションの共用部分は、管理人事務室、ポンプ室、電気室、エレベーター室、階段室、廊下、共用の玄関、ホール、その他建物部分のうち専有部分に属さない部分及びこれに附帯する設備とされ、各買主は、右共用部分につき、一階店舗部分を含む建物の専有部分の総床面積に対する各戸の所有する専有部分の床面積の割合による持分を取得するものとされていること、本件マンションの分譲時に、控訴人及び本件マンションの区分建物の買主全員により、本件マンションの建物、本件敷地及び附属施設の管理、使用等について建物の区分所有等に関する法律に基づく規約が定められたが、同規約は、右区分建物の売買契約を前提として作成され、共用部分及び共用部分の共有持分について右売買契約におけると同趣旨の定めがされたこと、被控訴人らは、右区分建物の買主又はその承継人であること、控訴人所有の一階店舗部分の床面積が本件マンションの専有部分の総床面積に占める割合は、一万分の一七〇六であることが認められ<る。>

右認定事実によれば、本件マンションの一階店舗部分の区分所有者である控訴人は、前記の規約に基づき、本件マンションの前記各共用部分を被控訴人らとともに、共有しており、その持分割合は、一万分の一七〇六であると一応認めることができる。

3  <証拠>によれば次の各事実を認めることができる。

(一)  建物の区分所有等に関する法律に基づく本件マンションの前記規約には、区分所有者は、管理委託契約書の定めるところに従い、建物・敷地・附属施設の管理を控訴人に委任する旨、各区分所有者は住居部分の面積に応じて共用部分の負担に任ずる旨、右管理費用とは、固定資産税その他の賦課金、町内会費、損害保険料、機械器具の動力費及び保守費、小修理費、清掃、衛生費、光熱水道費、管理委託費、その他共用部分の維持管理に係る一切の費用をいう旨並びに集会について昭和五八年法律第五一号による改正前の建物の区分所有等に関する法律(以下「旧法」という。これに対し、右改正後の同法を以下「新法」という。)二七条ないし三四条に準ずる条項が、それぞれ定められていた。

(二)  本件マンション分譲の売買契約が締結された際に、各区分建物の買主は、それぞれ控訴人との間で、買主は、建物・敷地・附属施設の管理及び環境の維持に必要な業務を控訴人に委託し、右管理業務に必要な費用として毎月住居部分一平方メートル当たり金一〇〇円(合計額のうち金一〇円未満は四捨五入)を控訴人に支払い、支払方法は毎月二五日までに翌月分を支払うものとするとの内容の管理委託契約を締結し、控訴人は、右契約に基づき管理業務をしてきた。

(四)(ママ)本件マンションの共用部分は、屋上、塔屋、外壁(争いがない。)等建物の躯体部分と、玄関ホール、廊下、階段室、機械室、エレベーター室、管理人室等の建物部分と、エレベーター設備、非常階段、火災報知器、集合テレビアンテナ、避雷針、共用燈、電気設備、排水管、排水桝、揚水ポンプ、地下受水槽等の建物の附属物とから成つている(以下これら共用部分をあわせて「本件共用部分」という。)ところ、控訴人は、これらの共用部分を管理してきた。その管理中支出した管理費の主なものは、雇傭した管理人の人件費、エレベーターの保守整備費、エレベーター、飲料水用高架水槽への揚水ポンプ、共用燈等の電力料、火災保険料、貯水槽清掃費、消火器点検費等であつた。

(五)  なお、本件マンション分譲の売買契約においては、各専有部分の床面積は、設計図面の壁芯計算によるものとされている。

(六)  ところが、昭和五二年九月に至り、右管理費の値上げ、他の区分所有者らからの店舗部分の区分所有者としての控訴人に対する管理費負担要求をめぐり、控訴人と他の区分所有者らとの間で紛争が生じたことから、控訴人は、同年一一月四日付の書面で、その余の区分所有者らに対し、管理委託契約の解約を申し入れ、同五三年七月末で管理業務を終えた。そこで、控訴人以外の全区分所有者が参加する自治会は、同五二年一一月二七日開かれた総会で控訴人に変わつて自治会が共用部分の管理をすることを決定し、同五三年七月三〇日開催の前記の本件マンション規約に基づく集会において、管理の方法、管理費の徴収等は控訴人と各区分建物の買主との間の前記管理委託契約の定めるところによるとの決議を経たうえ、同年八月一日から管理を行っている。管理費の額は、右七月三〇日開催の集会において同年九月分から一平方メートル当たり金一一〇円に、昭和五四年六月二四日開催の集会において同年八月分から一平方メートル当たり金一三〇円に、それぞれ値上げすることが決定された。なお、右各集会の開催に当たつては、控訴人を含む全区分所有者に対し会議の目的事項を示して招集の通知がされ、右集会の決定は、全区分所有者の持分の過半数に当たる賛成により決定された。

以上の事実を認めることができ<る>。

右認定事実によれば、本件マンションの区分所有者は、共有者の持分の過半数により、本件共用部分の維持管理費を請求原因3の(一)ないし(三)記載のとおり決定したものと評価することができる。

4  ところで、控訴人は、本件共用部分について、これらのうち外壁・屋上・塔屋の維持費は管理費・共益費の問題でなく、火災報知器・クーリングタワーの設置と管理費負担とは無関係であり、その他の部分の中に控訴人が共用できる部分はないから、本件共用部分は全体共用部分ではなく、もつぱら被控訴人らの共用に供される一部共用部分であると主張して、控訴人に右管理費用の負担義務があることを争つている。

思うに、区分所有建物の管理に関する事項は、共有者の持分の過半数で決めるべきであり(旧法一三条一項、新法附則二条但書参照。新法下では、新法一八条により、集会の決議で決する。)、管理には当然費用支出を伴うのであるから、維持管理すべき全体共用部分のほとんどないような例外的場合を除き、全共有者の過半数で共用部分の費用負担について決議された場合には、各区分所有者は、原則的には、その決議に拘束され、その決議どおりの管理費用支払義務を負うこととなると解すべきである。

しかし、各区分所有者の負担すべき費用の額は、元来、その持分に応じて決定するのが本来の姿であり、また、一部共用部分のあるときは、実質的に公平を害しないような事情のある場合を除き、右一部共用部分についての費用はその部分の共用者のみで負担すべきであることは、旧法一四条、八条(新法一九条、一二条)の規定に照らして明らかであるから、これらの原則に反して負担額が決定され、その結果が著しく不公正・不公平である場合には右決定は無効であるものと解される。

5  そこで、次に、本件共用部分が被控訴人らのみの一部共用部分であるか否かにつき検討する。

本件マンションの屋上、外壁、塔屋が、性質構造上の全体共用部分であること、本件敷地が控訴人及び被控訴人らの共有に属することは、前記のとおり、当事者間に争いがない。

<証拠>に前記当事者間に争いのない事実を総合すると、次の各事実を認めることができる。

(一)  本件マンションの一階には、控訴人経営のサウナ、コインランドリー(昭和五五年以前はスナック)、理髪店から成る店舗部分の控訴人の専有部分と玄関ホール、二階に通ずる階段室、エレベーター室、管理人室等の共用部分とがあるが、控訴人の右専有部分は本件マンションの東側のみに出入口があるのに対し、右共用部分は西側に出入口が設けられ、建物内に控訴人の専有部分から右共用部分へ直接通ずる通路はなく、エレベーター室は一階から八階まで通じて、その中をエレベーターが昇降しており、また北側には、右階段室に接続して二階から屋上まで結ばれた非常階段と、一階から八階まで通ずる非常階段とが設けられ、さらに南側に二階と地上とをつなぐ非常階段が設置されており、控訴人の専有部分は、共用部分の玄関ホール、階段室、非常階段、エレベーター室、管理人室等とはかなりの程度まで分離された構造、位置関係にあり、しかも、これら共用部分は、通常主として二階以上の専有部分の用に供されている。また、管理人は、一階玄関、廊下、階段の掃除、二階以上の専有部分居住者のごみの整理等の作業に従事し、主として二階以上の専有部分の居住者に対するサービス提供の業務に従つている。

(二)  しかし、他方、控訴人代表者は、設計段階から一階の控訴人の専有部分をサウナ、理髪店等の営業に使用することを予定し、そのため、本件マンションの共用部分であることの明らかな三階西側テラス部分に一階店舗用の上水貯蓄タンクを置き、屋上塔屋に「サウナ」という文字が表示されたネオンサインの広告搭を設置し、東北隅に附設された非常階段に各店舗の看板を取り付けることを計画し、その後右各設備を作つて、これらの共用部分に設置した。控訴人は、他に、屋上に一階店舗の冷房に用いるクーリングタワーを置いて使用している。また、一階店舗部分の西端付近にサウナ用ボイラー室の煙突が建物内に組み込んで設けられているが、右煙突は屋上まで通じている。

(三)  そして、屋上には、二階以上の専有部分居住者用の高架水槽があり、また、右高架水槽には共用部分の揚水ポンプで揚水されているが、一階店舗専用の前記クーリングタワー用の冷却水も、右高架水槽から給水されている。さらに、屋上には、控訴人を含む全共有者用のテレビアンテナや避雷針も附設され、建物全体に通ずる換気孔が突出している。

(四)  控訴人は、自己の所有する前記各設備の設置、塗装、修理、調整等のために、従前、時折ではあるが、前記の屋上、塔屋、階段等の共用部分を行き来したことがあり、また今後とも行き来する必要性があるところ、右屋上、塔屋、階段等は、非常階段、廊下、エレベーター室、階段室、玄関ホール等と直接に又は順次接続した構造であり、他に通行の方法がないため、控訴人も右往来の際には右階段室、玄関ホール、廊下、エレベーター室等を使用してきたし、今後も必ず使用しなければならない必要性がある。

(五)  前記の本件マンションの規約には、外壁の一部、屋上、塔屋外壁は、広告物その他の施設を設置するため、控訴人がその専用使用権を保有し、本件マンションの敷地についても控訴人がその専用使用権を保有するとの条項があり、控訴人は、右条項に基づき、右(二)の各設備を設置しているほか、後記のとおり、右敷地をも専用使用している。

(六)  一階の店舗部分と各非常階段、玄関ホール、エレベーター室、管理人室等共用部分とは、前述のとおりかなり分離してはいるが、控訴人が専用使用権を有するマンションの敷地を通れば、店舗部分からわずかに公道に出るのみで、右共用部分へ出入することができる。

(七)  一階店舗部分と二階以上の居住部分の排水配管及び排水桝とは、すべて一体のものとしてつながつている。また、地下の受水槽の中には、二階以上の居住者の飲料水用の揚水ポンプ二台と一階店舗用の消火ポンプ一台が設置されている。そして、本件マンション西側階段下に設置された消火栓は全階に通じている。

(八)  一階北側の通路に面した本件マンション一階の外部露出した天井部分に共用燈が設置されているが、その配線・電源は二階以上に設置された共用燈と一体で、電気料金も一体として支払われている。

(九)  管理人室は、玄関室に接して設けられているが、その室内には、エレベーター内につながるインターホーンのほか控訴人を含む全専有部分の非常警報が集中された表示板が設置されている。管理人は、右(一)のゴミ整理、サービス等の作業のほか、揚水ポンプ、エレベーター等の機械設備の点検等の作業に従事し、また、右管理人室内で非常警報の表示板を監視するなどの仕事にも就いている。

以上の事実を認めることができ<る。>

6  前記5において認定した事実に、前記1の争いのない事実及び前記2の認定事実を総合すれば、本件共用部分の中には、屋上、外壁、塔屋、火災報知器、テレビアンテナ等一見して明らかに全体共用部分である部分もあるが、その余の玄関ホール、階段室、エレベーター室(エレベーター設備を含む。)、非常階段、管理人室等主なものは、控訴人の専有部分とかなりの程度まで分離された構造、位置関係にあり、主として二階以上の居住者の用に供されていることは否定できないが、これらも、建築当初からの控訴人側の計画に基づき、控訴人専有部分の用に供すべき附属設備の設置及びその維持管理のため控訴人によつて共用され、頻度は少ないが使用され、今後もその共用、使用が控訴人専有部分にとつても必要不可欠であり、また控訴人に専用使用の認められている全体共用部分である敷地をも一体として使用すれば、控訴人専有部分からこれらの共用部分へ出るのに特に支障もないこと、規約上も控訴人がこれらの共用部分を共有することが明示されており、控訴人がこれらを共用することに何らの制限も置かれていないこと、さらに管理人の職務も二階以上の専有者が享受するサービスに関するものが多いものの、控訴人専有部分の維持管理に係わる仕事も担当していることが明らかである。

そして、旧法四条一項但書(新法一一条一項但書、三条後段)は、一部共用部分を「一部の区分所有者のみの用に供されるべきことが明らかな共用部分」と定めているが、その趣旨は、元来、各区分所有者ないしその専有部分と共用部分との関係は、位置関係、使用度、必要性等さまざまであるが、これら関係の濃淡、態様を細かに権利関係に反映させることは困難でもあり、相当でもなく、むしろ、建物全体の保全、全区分所有者の利益の増進、法律関係の複雑化の防止等のため、ある共用部分が構造上機能上特に一部区分所有者のみの共用に供されるべきことが明白な場合に限つてこれを一部共用部分とし、それ以外の場合は全体共用部分として扱うことを相当とするからであると解される。

これを本件についてみると、前述したところによると、本件共用部分(但し、屋上、外壁、塔屋等全体共用部分であることに争いないものは、ここでは除く。)の中、玄関ホール、階段室、エレベーター室、エレベーター、非常階段、管理人室等は、控訴人の専有部分とは構造上かなり分離され、同人の使用度も少ないとはいえ、なお右専有部分と完全に分離されたものでもなく、控訴人の右専有部分の使用に必要不可欠の部分であつて、これらを構造上機能上控訴人を除く被控訴人らのみの共用に供されるべきことの明白な共用部分と認めることはできず、本件共用部分中爾余の部分が一部共用部分であることを認めるべき証拠もないから、結局、本件共用部分は全体共用部分というべきである。

そうすると、控訴人は、本件マンションの共有者の持分の過半数による決議に従つて、共用部分の管理費用を支払うべき義務がある。そして、旧法下における管理組合のない区分所有建物の各区分所有者は、共用部分の管理について団体を形成するが、その法律関係は、その選択に従い、組合又は権利能力のない社団であると考えられるところ、被控訴人らは本件において前者を主張するから、控訴人は、各被控訴人の選定当事者全員に対し右管理費用を支払うべきである。なお、本件共用部分についての控訴人とその他の区分所有者らとの使用の頻度によると管理費を各専有部分の床面積に比例して定めることは必ずしも相当ではなく、将来より合理的な定めがなされるべきであるが、床面積による定めをした前記規約を著しく不公平であり、公序良俗に反して無効であるとまでいうことはできない。

7  そして、<証拠>によれば、控訴人の専有部分の壁芯計算による床面積は三五二・二七平方メートルと認められるから、控訴人が支払うべき管理費は昭和四八年八月分から昭和五三年八月分までは毎月金三万五二三〇円(平方メートル当たり一〇〇円、一〇円未満四捨五入)の割合による六一月分計金二一四万九〇三〇円、昭和五三年九月分から昭和五四年七月分までは毎月金三万八七五〇円(平方メートル当たり一一〇円、同前)の割合による一一月分計金四二万六二五〇円、昭和五四年八月以降の分は毎月金四万五八〇〇円(平方メートル当たり一三〇円、同前)となる。また、弁済期は、前記2において認定したところによれば、毎月二五日までに翌月分を支払うべきものである。

8  請求原因第二の一の6の事実は当事者間に争いがない。

三(撤去差止請求について)

1  請求原因第三の一、二の1ないし4、三の各事実は、当事者間に争いがない。

2  そこで、抗弁について検討するに、<証拠>によれば、控訴人は、本件マンションの区分建物の売買の際、各買主との間で、「本建物の内広告物その他の施設設置のための外壁の一部、屋上及び塔屋、外壁の使用権は控訴人が保有するものとする。敷地の使用権は控訴人が保有するものとする。」との条項について合意をし、さらに前記の規約においても右売買契約と同一内容の合意がされたことが認められる。

右認定事実によれば、控訴人は、本件敷地の専用使用権及び本件マンションの外壁の一部、屋上、塔屋、外壁につき広告物その他の施設設置のための専用使用権の設定を受けたと評価される。また、控訴人が本件マンションの共有者の一人であることは前述のとおりであり、後述の右専用使用権の設定目的・内容に照らすと、右専用使用権の設定は、物権的合意と判断することができ、控訴人は、右専用使用権を本件マンションの区分建物の買主の特定承継人にも対抗できると考えられる。

3  そこで、再抗弁1について考えてみると、民法二五六条の規定の趣旨は、民法の共有は、各共有者がいつでも分割を請求して共有関係を終了させうることを本質とするものであるから、不分割の合意によつて分割を禁止することを認めつつも、その本質を害さないため、不分割の合意に五年の期間の制限を加えたものと解される。

確かに、区分所有建物の共用部分の専用使用権に期間の定めがないときにこれを当然に永久的のものであつて法律上無制限のものと考えることは相当でないが、区分所有による共有関係は、通常の民法の共有と異なり、分割を本質とするものではなく、むしろ分割しえないから共有となつているものであつて、不分割を本質とするものであるから、そもそも本質を異にする右民法二五六条を類推適用して右の期間の点を画するには無理があるといわなければならないのであり、期間の点を画するには、設定された専用使用権の内容、専有部分と専用使用部分との使用上の牽連関係の内容、程度、設定の経緯、対価の有無、専用使用部分についての専用使用者と他の共有者との双方の使用の必要性、専用使用権の規約上の変更の可能性等を総合的に判断して、公序良俗違反、信義則等の一般条項の活用により具体的な事案ごとに個別的に解決するほかないと考えられるから、その余の点について触れるまでもなく、再抗弁一の主張は失当である。

4  さらに進んで再抗弁2(公序良俗違反)について検討を加える。

<証拠>に、前記認定事実を総合すれば、次の各事実を認めることができる。

(一)  本件マンションの各区分建物の買受人は、いずれも、控訴人より売買契約の代行を委任された住発株式会社から土地付区分建物売買契約書及び本件マンション規約書を見せられ、説明を受けたうえで、売買契約を結んだ。

(二)  右売買契約書及び規約書には、本件マンションの敷地、外壁・屋上・塔屋外壁に控訴人のための専用使用権を設定する旨が明記されていたが、敷地だけは使用目的に制限がないものの、その余は広告物その他の施設設置に目的が制限されている。

(三)  控訴人は、本件マンション設計時から、自己の専有する一階店舗部分で、サウナ・理髪店等の営業を行うことを予定し、屋上に前記の「サウナ」の広告塔を、階段に各店舗の看板を設置し、敷地を各店舗営業用の駐車場にすることを計画して、右のとおり、売買契約書、規約書中にこれらの部分の専用使用権を控訴人に留保する条項を挿入し、本件マンションの建築分譲後、右計画に従つて、各専用使用部分を使つており、他に、前記のクーリングタワー等専有部分たる店舗部分の維持に必要な附属機器類を設置するのに用いている。

(四)  控訴人の専用使用権設定について特段の対価は支払われなかったが、控訴人代表者の意識としては、その代償として、同種マンションに比し、本件各区分建物の分譲価格を幾分低目に設定した。その後、専用使用に対する使用料等の対価は授受されず、従前無償であつたが、右売買契約書及び規約書中対価についての条項はなく、また、分譲の際、右住発株式会社からも控訴人からも無償であるとの説明もなかつた。

(五)  二階以上の専有部分の居住者らは、敷地全部が控訴人に専用使用されて自転車置場のないため、相当の不便を忍んでいるほか、訪問者のために自動車駐車場が確保されることを望んでいる。

(六)  前記規約第七条には、「共用部分の変更」の標題の下に、建物共用部分の変更は、共有者の持分の四分の三以上の合意がなければすることができず、その場合においてその変更が専有部分の使用に特別の影響を及ぼすときはその専有部分の所有者の承諾を受けなければならないが、当該所有者は正当な理由なくしてこれを拒むことはできないとの条項が置かれているところ、右条項は共用部分である敷地についても当然適用があると見られる。

以上の事実を認めることができ<る。>

そして、本件全証拠によつても、控訴人が右(三)の使用方法以外の方法により専用使用部分を用いていることも、被控訴人らが右(五)以外の点で控訴人の専用使用により不利益を受けていることも認められない。

また、前記二において検討した結果によれば、本件の共用部分の主なものは、二階以上の居住者の用に供される割合が多く、控訴人の使用頻度はこれと比較すれば小さいが、管理費用負担においては持分割合に応じて平等に負担すべきものである。

5 そうすると、本件マンションの専用使用権は、控訴人の設計当時からの計画に基づき控訴人の専有部分の使用に附従して設定、行使され、その使用方法に特に不当な点も見当らず、直接の対価授受はないものの分譲価格の設定、管理費用の負担の点からある程度の経済的調整はされているものと評され、また、将来著しく経済的不均衡の生じたときに管理主体の側で有償に切りかえるについて全く方途がないともいえないと考えられ、さらに、各区分建物の買受人も専用使用権の存在内容を十分知りうる立場に置かれ、購入について検討の機会を与えられたうえ、分譲を受けたもので、控訴人が社会的強者の立場を利用し、又は買主の無知に乗じた跡はなく、加えて、被控訴人らに自転車置場とかその他敷地の一部についての使用する必要性は強く、これを妨げている点において相当でない面のあることは否定できないのであるが、これらの点についても規約上共用部分の変更は可能であつて、被控訴人らの必要性の強い限度においては控訴人はこれを拒むことができないと解されるのであるから、以上の諸事情の下では、控訴人に専用使用権を認めた合意が著しく不当で公序良俗に違反して無効であるとまで断ずることはできないのであり、他に右の点を基礎づける事実を認めるべき証拠はない。

四(結論)

以上のとおりであつて、被控訴人らの本訴請求は、管理費用の支払を求める主位的請求の限度で理由があるのでこれを認容すべきであるが、その余は失当であるから棄却すべきであるから、控訴人の本件控訴を失当として棄却し、被控訴人らの附帯控訴に基づき、右判断と異なる原判決を右のとおり変更することとし、訴訟費用の負担につき民訴法九六条、八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(田尾桃二 南 新吾 成田喜達)

選定者目録一 斉 藤 辰 一

外二三名

選定者目録二 石 井 康 允

外一七名

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